第40章 最後の勝負
『ん?どうした?もしかして柿は苦手だったかな?』
さすがに何を思い出したかなど言えるはずもなく。
信玄の手には触れない様、意識しながら柿を受け取った。
『柿、好きですよ。一乗谷へ向かう前の日に幸の部屋で食べたんです。甘くてとっても美味しくて。ちゃんと500年後に繋がってるなって思いました』
食べた後の事を思い出しながらも、話を違う方向に持っていく。
もちろん今この場で謙信の事をはっきりと思い出さないためだ。
もしもあの日の事を思い出せば確実に顔に出るだろう。
『へえ、500年後の時代でも食べられているのか』
信玄からは特に怪しまれる様子もなく、そのまま会話が続いていく。
『はい。どんどん品種改良されて美味しい柿をどこにいても食べられます。流通も発達していますからね。500年後の甲斐の国でも美味しい柿が作られていますよ』
『なるほどね、未来の甲斐の国には綺麗な水と土と空気がある。嬉しいよ、聞かせてくれてありがとう。さあ、再びお腹が鳴る前に召し上がれ』
『はい!ありがとうございます。いただきます』
受け取った柿を食べるため勝負は再び中断する。
『うん!やっぱり甘くて美味しい!』
(でも……)
上手く言葉にならないけれど、違う感情に頭の中を支配されていた。