第40章 最後の勝負
2戦目ともなると先ほどまでの緊張感もだいぶなくなり、碁石の重さもどことなく軽く感じる。
パチパチと碁石の音を気持ちよく響かせながら勝負の時が流れていく。
だが真剣勝負を続けているとどうにも体力を消耗するらしく、碁石を置いた瞬間にお腹から大きな音が聞こえてきた。
『わああ!何でこんな時に!!』
慌てて両手でお腹を押さえるも時すでに遅く。
『ふっ、正直な体をしてるんだな。もっと暴いてやりたいところだが俺はお腹をすかせた姫をそのままにしておくほど酷い男じゃないんでね。ちょっと待っててくれるか?』
そう言って信玄は立ち上がると部屋を出ていく。
一人取り残された部屋でふと先程の会話の内容を思い出した。
(今からでも遅くないって、あれは絶対に本気だった。あんなに真剣な表情の信玄様、初めて見たもん。
もし仮に信玄様についていきますって言ったら…
いや、それはやっぱり考えられないよ。謙信様との事も正直これからどうしたらいいのかわからないし…)
碁盤に置かれた碁石を見つめながら考え事を続けていると、信玄が何かを手にして戻ってきた。
『姫、待たせたな。本当なら城下に連れ出して2人で甘いものでも食べたかったんだが今日はこれで許してくれ』
差し出されたのは大きな柿。
『あ……』
鮮やかな色を見たその瞬間、謙信と過ごした甘くて濃密な時間を鮮明に思い出した。