第40章 最後の勝負
ほんの少しの静寂のあと、信玄が真剣な眼差しでこちらを見ながら口を開く。
『前にも言ったが……今からでも遅くない。謙信でも信長でもなく俺を頼ってくれていいんだぞ?』
確かにそれは前にも聞いたことのあるセリフで。
その声のトーン、表情、射抜くような強い眼差しから本気で口説かれているのだとわかる。
『……信玄様…あの…お気持ちはとても嬉しいのですが』
そこまで言いかけると信玄が言葉の続きを遮った。
『ああ、大丈夫だ。言いたいことは分かっているよ。俺みたいないい男を2度も振るなんて、後にも先にも天女だけだろうなぁ』
ふっと優しく笑いながらそう言ってはいるが、どこか寂しそうに目を細める瞬間を目の前で見てしまうと、さすがに少し申し訳なく思えてくる。
『ごめんなさい…』
(本当にごめんなさい…)
『謝る必要はないよ。もし叶うならばまたこうして話をしながら囲碁で勝負をしてもらえるかい?』
『はい、もちろんです。私でよければいつでも相手になります』
それは嘘偽りのないまっすぐな返事で。
その返事を聞いた信玄の瞳に再び光が宿った様に見えた。
『じゃあ再び勝負再開といこうか』
『望むところです』
笑顔を交わすと再び交互に碁石を置き始める。
だが真剣勝負の決着は一度ではつかず、会話をしながらの2戦目へ持ち越しとなったのだった。