第40章 最後の勝負
『帰るという選択肢は私の中にはありませんでした』
信玄の目を真っ直ぐに見つめながら答えた。
『それはどうしてだい?誰だって戦なんかない生活を送れる方がいいと思うはずだ』
『もちろんそうです。戦なんかしない方がいいんです。だから私はここに残りたかったんです』
『それは……どういうことなんだ?』
2人とも会話に夢中になり、碁石を置く手はすでに止まっていた。
『500年後の平和な国を築くため私も力になりたいんです。もしまた私が消えそうになったらそれは平和な未来が変わってしまうということでしょう?』
『なるほどな、つまり500年後の平和な国の姿を守りたければ姫を守ればいい、そういう事だな』
『守って欲しいなんて言える立場にないのは分かっています。刀も使えませんし佐助君みたいに知識もありません。
でも協力したいんです。私がこの時代に飛ばされたのは平和な未来をどうにかして守るためだって、勝手にそう思ってるんです』
『つまり未来を守るために残ったという事なんだな』
『はい。私もこの時代に残った以上、平和な未来のために戦います』
『戦うだなんて、これじゃまるで本物の戦女神だな。心配ない、それだけの覚悟があるならちゃんと守ってやるさ』
安土城へ戻る日も近づく中、そう言われた事がとても嬉しく、また頼もしくもある。
『信玄様、ありがとうございます』
『礼はいらないよ。ただ……一つだけいいか?』
最後に信玄の声のトーンが低くなり、ずっと手にしていた碁石を緊張のあまりぎゅっと握りしめていた。