第40章 最後の勝負
一手間違えればそこですぐに勝負は終わってしまう。
碁石を置く指先に無意識に力が入ってしまうのを信玄はもちろん見逃さない。
『考えていることが全て顔に出るんだな。許されるならずっとこうして俺の天女を見ていたい気分だ』
そう言うと信玄は直美の表情をじっと見つめる。
この言葉、心理戦を仕掛けているのかわからないがここで動揺するわけにはいかない。
『百面相は自分では気づかなかった特技なんです。長所でもあり短所でもありますよね。表情で感情が分かりやすいってよく言われるんです。私は普通にしているだけなのに……』
しばらく考えた後、碁石の音を響かせながらゆっくりと碁盤の上に並べて置いた。
『それは間違いなく君の魅力の一つだ。信長や謙信が君をそばに置きたがる理由が俺にもよく分かる。あの二人だけじゃない、北条も毛利も君という宝石を手中に納めたかった。そうだろう?』
信玄は笑顔でそう言いながら自分の碁石を置いて話を続ける。
『宝石だなんて大げさです。私は誰が相手だろうと私のまま接しているだけです』
『ここに来る前の元の時代ってのはみんなそうなのか?』
『そうですよ。私みたいな女の子はそこら辺に溢れてますからね。みんなおしゃれして、一生懸命勉強して…
それに国内での領地争いはありません。それはまさに今この時代で未来の国の土台が作られているからです』
静かな部屋にまた一つ碁石の音が響く。
『帰らなくて良かったのか?戦女神だなんて噂されて、また何かに巻き込まれる可能性があるんだぞ?』
心配そうにこちらを見つめる信玄の表情に、これはずるい大人が仕掛けた心理戦ではない事を確信した。