第38章 一乗谷城の戦い
『本当に名前の通りにせずとも過ごせるのだろうな?よりによって信長の、それも側室とは……違う名前はなかったのか』
『謙信様、すみません。あの状況で浮かんだのは有名な名前ばかりで…それだと歴史が大きく変わってしまう可能性があるためこの名前しかありませんでした』
謙信がゆっくりと姫鶴一文字を下げる。
『やむを得ないが認めるつもりはない。何かあれば斬られると思って覚悟しておけ』
『わかりました。これまで通り24時間、寝ている時すら鍛錬という事ですね。覚えておきます』
(名前一つにここまで嫉妬してくるだなんて……)
謙信の反応に少し戸惑いながら、その気持ちが嬉しくも思える。
『謙信様、私はこの時代に残れるのならどんな名前でも構いません。下の名前は変わらないですし、私はずっと私のままです』
『当たり前だ。信長の側室になるなど許さぬ。その時は休戦協定も終わるだろうな』
『えっ、それは駄目ですよ!私は信長様の側室になんてなるつもりはないですから。だから休戦協定は続けてください!』
必死になって謙信にそう伝えると、謙信は何かを思い付いたように微笑し、刀を鞘に収める。
『そうか、今後はお前次第ということだな』
意味深な言葉に心の中がざわめいたけれど、やっと刀を収めてくれた事にほっとした。