第38章 一乗谷城の戦い
『いつもおかしな事ばかり言っているが、今回は役にたったようだな。褒美に鍛練の相手をしてやるから喜べ』
『謙信様、それいつもの事ですよね』
相変わらずの2人の会話を聞いて思わず笑ってしまう。
『ふふっ、私はこれからも皆と一緒にいられる事が本当に嬉しいです』
空気が和んだ所で信長が直美から一歩離れた。
『信長様…ありがとうございます』
『礼などいらん。無事に援軍が来たおかげで今頃伊賀の忍たちも一人残らず一乗谷から消えているはずだ。
俺と家康は本陣に寄ってから一度安土城に戻る。直美、貴様はあと数日春日山城で遊んでいろ』
『えっ……』
このまま安土城に一緒に戻るのだろうと思っていたのに、信長から意外な一言をかけられてすぐに返事が出ない。
その様子を見ていた家康が、直美に香袋を渡しながら声をかける。
『ここにあった一乗谷城と小谷城がなくなっちゃったから、急がなきゃいけない処理がたくさんあるんだよ。はい、これ。三度目だけど持ってて。何て言うか……ありがと』
明らかに照れた様子の家康から香袋を受け取った。
『家康、あのさ、家康が無事でよかったよ。生きた心地がしなかったから』
『ごめん。だけどその鉄砲玉みたいな性格、本当に気を付けて』
『鉄砲玉!?……う、うん、善処します』
言葉だけを捉えると冷たく感じるのだが、家康の表情は今までで1番優しく、柔らかいものだった。