第38章 一乗谷城の戦い
信玄が声を潜めながら説明する。
『何も城の中に限った事じゃないんだが、門徒の中に伊賀の忍が紛れ込んでるんだ。ずっとこっちの様子を伺ってたぞ』
『えっ!?全然気がつきませんでした』
『たかが忍ごときに負けることはないが、毒を塗った武器を振り回してくるからな。生きて帰りたかったら十分に警戒しろ』
話を聞いていた小太郎が静かに忍刀を鞘から抜く。
『さっそくお出ましの様です。探す手間が省けてこちらとしては助かりましたね』
『姫、動くなよ』
『動いたら命の保証が出来なくなるからな。目を閉じて寝ていろ』
謙信と信玄も刀を抜いた、と同時に部屋の襖が勢い良く開く。
数人の忍らしき男たちが部屋の中に乱入し、目の前で刀と刀が交差しては火花が飛んでいった。
小太郎は廊下に一番近い場所で、謙信と信玄は直美を背に庇いながら、次々と襲いかかってくる忍たちを斬り伏せていく。
(これじゃ休んでる余裕なんてない!寝てる場合でもない!でもこれが少しでも時間稼ぎに繋がればいいんだけど…)
馬の世話をしている佐助と幸村は強くなり始めた雨と風の音に気を取られ、城内で起きている戦いの気配には全く気がつかなかった。