第38章 一乗谷城の戦い
一乗谷城では門徒たちの撤退が始まり、城内はまだ騒然としていた。
城門から敷地内に入るとすぐに馬を休ませるための馬小屋を見つけ、佐助が先に行って中を確認する。
『謙信様、ちょうど皆の馬を休ませるだけの広さと食糧がありました。ありがたく使わせてもらいましょう』
『ああ、馬のことは任せた。必要なものがあれば調達してくるから言え』
幸村と佐助が率先して馬たちを小屋の中に連れていき、直美も桶を手にすると近くにあった井戸から新鮮な水を汲んで小屋へと運ぶ。
『姫、貸しなさい。重いものを持つのは男の仕事だからな』
信玄が直美の手から水の入った桶を半ば強引に受けとる。
『信玄様!私も何かお手伝いがしたいです!』
スタスタと歩いて行く信玄の背中を追いかける。
その様子を見ていた謙信が信玄と直美の間に入って返事をした。
『うちの城の客に馬用の水汲みなどさせられるわけがないだろう。今は黙って体を休ませろ、いいな』
厳しい口調だが謙信の表情はとても優しい。
(絶対みんなの方が疲れてるはずなのに。一人だけ休むなんて出来ないよ)
『でも……私も何でもいいからやります!』
そう言い終わるのと同時にポツポツと雨が降り始めてきたのがわかった。