第38章 一乗谷城の戦い
佐助たちが織田軍の本陣を出てしばらくした後、それまでずっと意識のなかった家康がゆっくりと目を覚ました。
(ここは……あぁ、本陣に戻る途中で倒れたんだ……それで……この香りは……)
香袋からほのかに香る白檀の香りに家康の意識がはっきりと戻る。
まだ上手く力の入らない体を無理矢理に起こして周囲を見回すと、その視界に入ったのは枕元に置かれた見覚えのある香袋だった。
(!!これは俺が直美にあげた香袋だ!何でここにあるの?まさかとは思うけどここに来てるの?)
香袋を手に取り懐に入れると、ちょうど信長が天幕の中へ入ってきた。
『意識が戻ったか』
『はい。今回は俺が油断したのが全ての原因です。迷惑かけてすみません』
『どうやら記憶は問題なさそうだな。忍の武器には毒が仕込んであると思え。俺も一度風魔にやられたからあまり強くは言えぬがな。戦場では一瞬たりとも気を抜くなという事だ』
『はい、その通りです。ところで……もしかして今ここに直美が来ているんですか?』
『いや、この本陣にはおらん。今は上杉たちと共にいる。軒猿の佐助が解毒薬を届けに来たのだが、その解毒薬を手に入れるのに直美が貢献したそうだ』
『そうでしたか。後で俺からもお礼を伝えます』
向かい合って会話する2人の声と表情はお互いとても柔らかく見えた。