第38章 一乗谷城の戦い
それもそのはず。
織田軍は全員が本陣に戻って援軍の到着を待っており、一乗谷城の中ではすでに本願寺の門徒たちが城の敷地内を我が物顔で歩いている。
伊賀の忍たちは織田軍の本陣に急襲をかけるための話し合いを目立たない場所に集まって粛々と行っていた。
(どうしてこんなに静かなの?)
嵐の前の静けさとは言うが、正直嫌な予感しかしない。
『小太郎さん、解毒薬を手に入れたら家康のところにすぐ届けてもらえますか?』
『もちろんです。でも無茶はしないでください』
『大丈夫です。皆さんが一緒ですから』
力強くそう言うと次は謙信に話しかける。
『謙信様、ここからは私が先頭を走ります。いいですよね』
有無を言わせない口調と真っ直ぐな瞳で謙信を見つめた。
『いいだろう。伊賀の忍をおびき寄せるにはそれが一番手っ取り早い。時間がない、行け。俺が後ろにいるから安心して走れ』
消えかけた体の一部、小指の先端が少しだけ広がっているように感じる。
(謙信様、気付いてたのかな……)
不安を胸に隠したたまま、一乗谷城の周辺を伊賀の忍を探すようにしながらゆっくりと走り始めた。