第8章 小田原城
『氏政様、風魔小太郎にございます』
『入れ』
部屋に入ると奥の方で脇息にもたれた氏政がにやりと笑って直美を見つめた。
相手は自分の欲のために父親までも手にかける男。
失礼な態度は命取りになると思い、まずは正面に正座し頭を深く下げて挨拶をする。
『直美と申します』
『躾はされている様だな。顔をもっとよく見せろ』
頭を上げたが目線を下げたままでいると氏政が近寄り、扇子で顎をクイッと持ち上げられた。
至近距離で目が合い、ぞくりと背筋が凍りつく。
迫力に圧倒されて何も言えずに黙ったままでいると、いきなり直球の質問を投げかけられた。
『織田信長を救ったのはどんな術だ』
『私にはそんな術など使えません』
視線を逸らさず、きっぱりとした口調で答える。
すると氏政はふっと笑って扇子を直美の顎から離した。
『まあ、よい。能ある鷹は爪を隠すものだ。その術を使ってここから逃げ出そうなどと思わぬことだ』
『術など使えないと証明するために尽力したいと思います』
『北条家のために尽力すると誓うのが先になるだろうがな。その心意気、気に入った』
その後、碁は打てるかと聞かれ碁盤を挟んで氏政と囲碁の勝負を行った。
だが何回勝負しても三成から直々に指南を受けた直美が負ける事はなかった。