第8章 小田原城
小田原城についた直美は監視の元、用意された着物に着替えていた。
渡されたのは素人が見てもすぐにわかるほど上質な反物で作られた着物だ。
ふいに安土城に初めて来た時の事を思い出す。
(突然この時代に来て色々あったな。あの日は着替えて信長様に会って……みんな今頃心配してるかな、信長様が無事だといいけど)
着物の着方は秀吉からしっかりと教わり、今では悩む事なく一人で着られる。
成長した自分が嬉しく感じるが、今は場所が場所だけにとても複雑な気分だ。
『支度が終わりました』
そう伝えると部屋の襖が外から開いた。
廊下にはあの風魔の男が立っている。
『貴女の監視と世話役を私が務めることになりました。これからは小太郎とお呼びください』
(えっ!小太郎?風魔小太郎?本当に実在するんだ)
『わかりました。これからは小太郎さんと呼ばせていただきます』
着替えの部屋を出ると直美は小太郎に案内されて城の最も奥にある氏政の私室へと向かう。
『それにしても着替えただけで更に美しくなりましたね。一体どんな術を使ったんですか?』
『何度も言いましたけど術なんか使えません。そんな力もありません』
信じてもらうには一体どうしたらいいのか。
目に見えないものを証明するのは非常に難しく、今は何も考えが浮かんで来なかった。