第37章 来客
『小太郎さん、景家さん、ごめんなさい。後からちゃんと説明します。危険な目に合わない様、絶対に謙信様のそばから離れません。だからお願いします』
謙信の頭の中には直美と佐助が戦のない平和な未来から来た事の他に、戦の結果や歴史の流れを知っている事が浮かんでいた。
『刀も扱えぬのに戦場に行ってどうするつもりだ』
ピンチの時にすることはもちろん決まっている。
『もちろん戦いを止めるように交渉します。伊賀の忍は私を殺すことはしないはずですから、安土からの援軍が来るまでの時間稼ぎくらいなら出来るはずです』
『だが交渉はお互い益のあるものでなければ成立しない。戦を止めさせる代わりにお前は何を差し出すつもりだ』
この答え、言わずにすむなら言わずにいたかったのだけれど謙信に聞かれてしまったのならちゃんと答えるしかない。
皮肉にも今はこの場で謙信との交渉が始まっていた。
『差し出すのは……私です。私を安芸に連れていく代わりに伊賀の忍と織田軍が戦うのを止めるように交渉するんです。援軍が来るまでの時間稼ぎとはいえ、信長様と家康の2人を守るにはそれしかありません』
もちろん謙信が簡単に受け入れる訳がない。
2人の交渉は続く。
『ただの時間稼ぎにしてはかなり危険過ぎる交渉だ。褒美より織田軍への復讐のためにお前を殺そうとする輩がいるかもしれぬぞ』
『だから謙信様に一緒に来て欲しいんです。守ってくださると……さっきの言葉を信じてもいいですか?』
直美の言葉や表情には、もはや何の迷いも見受けられなかった。