第37章 来客
『現在、安土からの援軍も向かっている様ですが、とにかく混乱状態のためこれ以上の事はわかりません。最悪の場合を考えてこちらにご報告に参りました』
冷たい汗が背中を流れていく。
(こういう時こそ冷静にならなきゃ。自分に出来る事は何かしっかり考えないと…)
『謙信様、お願いがあります』
織田軍が押され、しかも家康が怪我をしていると聞き、迷っている暇などなかった。
謙信には直美が何を言い出すのか大体の検討はついていたが、黙ってその言葉を待つことにした。
『お願いします、どうか一乗谷城まで私を連れて行ってください』
謙信の綺麗な色違いの瞳をじっと見つめなから訴える。
『そんな事出来るわけがないだろう。信長がお前を此処に寄越したのは戦に巻き込まないためだ。その思いを無下にするつもりか』
もちろん、謙信が絶対にそう答えることは発言する前から分かっていた。
小太郎と景家も2人の会話の行方を静かに見守っている。
『無下になんてしません。このままでは大変な事になるかもしれません。謙信様、もし織田軍が負けて信長様と家康の身に何かあったらこの先の歴史が大きく変わってしまいます!それによって私も佐助君も存在しなくなるかもしれません』
『直美様?』
『それはどういう事ですか?』
小太郎と景家は直美と佐助が500年後から来たことを知らないため、困惑した表情を浮かべている。