第37章 来客
『案ずるな、ここをどこだと思っている。今、この城に入れるのは身分が証明された者だけだ。怪しい者ならとっくに景家に斬られているだろう』
『確かにそうですね』
正論すぎるその言葉に安心して、目の前に来た謙信の顔を見上げる。
するとまるで不意討ちのように突然優しく腕の中に閉じ込められた。
『わっ!謙信様?』
『……俺が守ってやる。だから何も心配するな』
廊下での突然の抱擁に頭の中が真っ白になってしまった。
言葉を発するのもやっとだ。
『謙信様、ここでは誰かに見られてしまいますよ』
『構わん。こうしてただ守られていればよいのだ。だから……離れるな。こうして腕の中に閉じ込めておけば2度と俺の目の前で斬られる事などない。ずっとこうしていたいくらいだ』
『わかりました。離れる事で迷惑をかけるくらいなら離れません。謙信様のそばにいます』
閉じ込めていた腕にぎゅっと力が入ったのがわかった。
『あ、あの…早く広間に行かないと……』
『待たせておけば良い。大事な客なら景家が茶でも入れて手厚くもてなしているはずだろう』
ふと、最初に春日山城に来た時に景家がお茶を入れてくれた事を思い出す。
突然謙信の正室になってくれと言われてビックリした事も。
思い出したら何だか懐かしくて笑顔がこぼれた。