第36章 有言実行(R18 )
謙信の部屋に入るとすぐに食事が運ばれてきたが、何故か1人分しかない。
『今日は長い時間離れてすまなかった。特別に作らせた膳だ、遠慮せずに食べろ』
『え、でも謙信様は?お腹すいてませんか?』
『大丈夫だ。俺は酒と梅干しがあれば良い』
自分だけが食べるのはとても気が引けるのだが。
『郷に入れば郷に従えですもんね!いただきます!』
ここは遠慮せずに食べるのが正解だと思って箸を進める。
『ん!?おいしい!!』
一つ一つをしっかりと味わって食べながら謙信との会話も進める。
謙信も満足そうな表情で盃を口に運んでいる。
『今日は景家に護衛を任せていたが何をしていた』
『今日ですか、広間を出た後は景家さんのお部屋で囲碁勝負をしました』
『囲碁か。どちらが勝ったのだ』
『ふふっ!私です!』
『そうか、景家に勝つとはさすがだな。確か打ち方を石田三成に教わったと言っていたな』
『はい。この時代に来るまでは碁石を触ったこともありませんでしたけどね』
『機会があれば石田三成と手合わせしてみたいものだな。囲碁でなく、真剣を使った手合わせでもよいが』
『真剣!?でも以前、三成くんとは戦いましたよね。佐助君が来て終わっちゃいましたけど』
『ああ、とんだ邪魔が入ったな。だがあの時の俺は佐助の言う通り斬り合いを楽しめていなかった』
その後、蔵の様な牢に閉じ込められたのを思い出す。
その時に謙信から言われた言葉も思い出したのだけれど、あえて言う必要はないと言葉を飲み込んだ。
『ごちそうさまでした。美味しかったです』
空になったお膳を下げてもらうと、謙信の盃にお酒を注いでいく。
『では幸村の部屋では何をしていた?』
話題が再び今日の事に戻る。
『景家さんと囲碁をしていたらお腹がすいてしまったんで、甘いものをもらいに行ったんです』
『甘いものか、信玄のために買い込んでいるからな』
『はい。とても甘くて美味しい柿をいただきました!あんなに甘い柿、初めて食べましたよ!美味しかったなぁ』
『甘い柿か、ちょうど時期だったな…だがもっと甘いものを俺は知っているぞ。知りたいか?』
こくりと静かに頷くと急に視界が反転した。