第36章 有言実行(R18 )
『幸~!いるー?』
部屋の外から声をかけると、そっと襖が開いた。
『直美!…と、景家か。2人揃って何の用だ』
幸村が少し驚いた表現をしながら2人を見つめる。
『あのね、ちょっとお腹がすいちゃって。ここに来たら甘いものを隠してるのを知ってるから、ちょっと分けてもらえないかなって思って!』
『は?何言ってんだ。こんな時間に食べるもんじゃないだろ』
『今日はまだお茶しか口にしてないの。ね、お願い!』
『幸村殿、直美様は春日山城の特別な客人です。つまりは謙信様の大切な客人です。わかりますね?』
『わかったわかった!あの人に斬られたくねーからとりあえず部屋に入れよ』
『やったー!!』
景家のおかげで難なく部屋に入れてもらい、大きな柿をポンっと手渡される。
『今の時期はこいつが一番旨いんだ。菓子じゃないけど食ってみろよ』
『うん、ありがとう!』
『直美様、貸してください。私が切って差し上げます。指を怪我されては困りますから。幸村殿、懐紙をいただけますか?』
そう言うと景家は直美の手から柿を取り、懐に入れていた小さな刀を懐紙で拭うと器用に柿を切り始めた。
『で、捕まえた男は何か話したのか?』
『いえ、まだ謙信様と信玄様が戻らないということはこちらの欲しい情報は聞き出せていないのでしょう。口を割らなければ夜まで尋問でしょうね』
さらりとそう言っているが内容は穏やかではない。
『ああ、でもご心配なく。謙信様は夜は戻られますよ。夜は警備が手薄になりますから直美様を一番安全な場所でお守りしなければなりません』
もちろんそれが謙信の部屋なのは言われなくてもわかった。
慣れた手つきで切られた柿を食べると、あまりの美味しさに言葉と笑顔が漏れる。
『何これ!!すっごく美味しい!!』
『だろ?菓子なんかよりこっちの方が体にもいいんだ。信玄様にその顔見せてやりてーわ』
景家と幸村が話をしている横であっという間に食べ終わりお礼を伝えた。