第36章 有言実行(R18 )
『ご存知の通り、謙信様は何よりも戦を優先される方です。まずその認識は合っていますね?』
『はい。以前、信玄様と謙信様と3人でお話をした時にそうおっしゃっていました。戦う事が喜びで生き甲斐だと…私には理解出来ませんでしたけど』
『そのような考えに至るようになったのは、まだ多感な時期に出会ったある女性がきっかけだったと聞き及んでいます』
多感な時期、おそらくこの時代も500年後の時代も多感な年齢に大きなズレはないはずだ。
だとすると謙信が14,15才頃の話だろうか。
この時代ではその年齢では政略結婚の話もあるだろうし、男子なら初陣を飾る可能性もある。
余計な口を挟まずに景家の次の言葉を待った。
『上杉家に人質として来た女性が謙信様の身の回りの世話をするようになり、次第にその女性に好意を持たれていったと。
しかし人質ですからね。ある日を境に姿が見えなくなり、城の者に聞いて回った時にはすでにその方はこの世を去っていたという事です。
それ以来、謙信様は女性を自分に近づけない様にしているのです。そして戦にのめり込むようになり、ついには軍神とまで言われる様になりました』
『過去にそんな事があったんですね。このお城が女人禁制なのは女性を視界に入れない事で過去の事を思い出さないようにしているのでしょうか』
『まあ、そう考えるのが妥当でしょう。それに人質を取るような戦を嫌うのも過去の事があるからでしょうね。
直美様が謙信様に連れて来られた時は皆本当に驚いたのですよ。この話、私がしたというのは内緒にしてください。謙信様に斬られてしまうかもしれませんから』
景家はにっこりと笑いながら碁石を碁笥(ごけ)に戻していく。
同じように碁石を片付けていると、不意にお腹から大きな音がぐぅぅと鳴るのが聞こえた。
『す、すみません!真面目なお話をしていたらお腹がすいてきちゃいました!』
『ふっ、相変わらず面白い方ですね。朝食もまだでしたが、少し待てば昼食の時間になります。少しだけ待てますか?』
『あ、それなら是非行きたい所があるんですけど』
そう言って直美が景家を連れて向かったのは幸村の部屋だった。