第34章 春日山城、再び
謙信も信玄も最大限警戒してくれているのだが、やはり不安は隠しきれない。
『直美さん、おそらく毛利元就は俺たちが学んだ人物よりも性格がちょっと歪んでるんだと思う。現代の言葉で表現するなら愉快犯てやつだ』
『愉快犯?何だそれ?』
幸村が佐助に説明を求める。
『わざと世間を騒がせて、その反響を影から楽しむ犯人のことだよ。直接刀を握らない代わりに織田軍の動きを操作して楽しんでるんだ。そして隙をついて大将の首を狙う、こんなところだろう』
『性格わりーな。許せねぇ』
犯人はともかく、噂の原因を作ってしまったのが自分だということが耐えられなくなってくる。
『ごめんなさい。そもそも私があの人に刀を向けたのがいけなかったんです』
この言葉を拾ってくれたのは謙信だった。
『謝る必要などない。抵抗するために刀を向けるのは当然の事だ。それにそのために渡した刀だ、飾るために渡したのではない。もう済んだことを気にするな』
『誰も姫のせいだなんて思っていないからな。憎むべきは毛利だ、そうだろ?』
2人の優しい言葉に涙がこぼれそうになる。
『謙信、城の中で何かあったら困るからな。姫のことは頼んだぞ』
『当たり前だ、誰の城だと思っている。この城の中で問題を起こそうとするやつは味方であろうと斬るからな』
こうしてこの日の夜は人払いをされた謙信の部屋で、謙信と2人きりで過ごす事が公認となったのだった。