第34章 春日山城、再び
春日山の皆からすれば、一方的にやっかいな荷物を押し付けられたと言っても過言じゃないはずなのに。
城下に先程の噂話が出てしまったからには、もう遊びに来たという感覚ではいられない。
『私なら大丈夫、また前みたいに城下に出るのは危ないと思うからしばらく春日山城の中で大人しくしてます』
この状況で出来ることはそれくらいしか考えられなかった。
ここで話をずっと聞いていた謙信が口を開く。
『信長がこの女を有無を言わさずここに寄越したのは、確実に身を守ってやるのが目的だ。不審な者はそれだけで尋問の対象とし、拒むのであれば斬れ』
(わ!出た、斬れって……)
『直美さん、せっかく遊びに来てくれたのに何だか落ち着かなくて申し訳ない』
佐助がそう言ってくれたが、申し訳ないと思っているのはこちらも同じだ。
しかし佐助の次の一言で重大な事を思い出した。
『毛利元就といえば、直美さんの事を安芸に連れてこいって伊賀の忍に命令したんだよね』
(そうだった!ここには遊びに来たとばかり思ってたけど、私狙われてるんだった…)
『城に間者がいる可能性がある、暫くは俺の部屋で休め。人払いはさせてある』
『おい、謙信。お前はどこで寝るつもりだ』
『もちろん俺の部屋だ』
真顔で答える謙信に下心はないと判断した信玄は、それ以上は何も聞かずに引き下がる。