第7章 風魔の忍
さかのぼること数日前。
直美が光秀から教わっていたのは姫らしい綺麗で優雅でしなやかな所作などではなかった。
そういうのは秀吉から教わればいいと言って、最初から教える気もないらしい。
光秀から教わっていたのは敵との交渉術だった。
(思ってたのと全然違う!信長様はわかっていて光秀さんからも教われって言ったのかな)
直美の心の中は疑問だらけだった。
『なるべく声や表情には出すな』
『相手を怒らせずに話を進めろ』
『聞く側に徹して多くの情報を聞き出し、時間を稼げ』
『ただし自分の命が最優先。知りすぎれば危なくなる』
そんなに多くの内容ではないのにこれがまた難しい。
光秀を相手に練習を続けた。
もちろん会話のペースがこちらになる事は一度もなかったが、これもまた練習なのだと割り切った。
時には弾を装填した銃を向けられながら会話をした。
刀を喉元に突き付けられながら会話をした。
緊張でしどろもどろになり、何度もやり直しを求められる。
しかし、刀を持って戦えない自分が乱世で生き抜く事の大変さを真面目に丁寧に教えてくれたのが光秀だった。
『何かあったらきちんと姫らしく振る舞い、教えた通りに交渉しろ。必ず助けに行く』
光秀が優しい笑顔を向けて言ったその一言を直美は今でもずっと覚えていた。