第7章 風魔の忍
春日山城では幸村が留守を任されていた。
城を空けるわけにはいかないので鍛練場にて汗を流す。
そこへ上田城から使いの者がやってきて幸村にそっと文を手渡した。
『またかよ、これで何回目だ』
明らかに不快な表情だ。
幸村は文の内容を確認すると、その場でビリビリと破り始める。
『幸~、恋文は大事にしなきゃ駄目だぞ』
いつの間にか鍛練場の入り口に信玄が立っていた。
『そんなんじゃありませんよ』
『何度も恋文を送ってくるなんてよっぽど気に入られてるみたいだな』
『だからー、違うって言ってんですけど』
幸村の手から破れた文を奪い取り内容を確認すると、信玄の表情が一瞬にして曇った。
『これは…北条からの誘いだな』
『ああ、上田城の家臣を介して何度も文を送りつけてきやがる。厚待遇で受け入れるから北条に仕えろってな。冗談じゃねー』
『この先の戦の前にこっちを少しでも弱体化させようとしてるんだろう』
『戦ですか?』
『ああ、領地に風魔が忍び込んで佐助とやりあった。今、北条の動きを三ツ者に探らせている』
『俺はいつまでもあんたの味方です。誰が相手だろうとついて行きますよ』
『では足手まといにならぬ様に俺が鍛練の相手をしてやろう』
いきなり謙信が現れ刀に手をかける。
『げっ!いつから聞いてたんですか!』
『ずっと信玄の後ろにいたが。でかい図体で見えなかったらしいな』
『やれやれ、謙信は帰って早々相変わらずだな』
『佐助は腕の治療中だ。幸村、今日はお前が相手しろ。北条の元になど行かぬ様にこの俺が斬ってやる』
『言ってることがめちゃくちゃなんですけど…』
その後、鍛練場に刀の交わる音が響いたのだった。