第33章 毛利元就の思惑
『顕如様、昔の顕如様は誰よりも優しい人だったと聞きました。お願いします。文を書いてください。顕如様が本当は仲間を守りたいと思っているように俺は顕如様を守りたいんです』
必死に訴える蘭丸に顕如が低い声で話しかける。
『蘭丸、お前はお前から全てを奪った織田軍に復讐するのではなかったのか?このままでは復讐ではなく逆に利用されるだけだ。仮に私が文を書いて望み通りになったとして、間者は等しく死罪となるのだぞ。今すぐに私を見捨てて逃げたらどうだ』
『逃げたりなんかしません。それに信長様は俺の事も顕如様の事も殺さないと言っていた。本当だったら信長様と刀を交えた時にとっくに殺されていたはずなんです』
顕如も自分が山中城で信長と戦った時の事を思い出していた。
『それに…俺は伊賀の忍です。仲間に顕如様の命を奪われるのだけは何があっても絶対に避けたい。だからお願いします。文を、文を書いてください!俺を救ってくれた貴方を今度は俺が守りたいんです!』
強く訴えながら深々と頭を下げる蘭丸を顕如はじっと見つめていた。
『蘭丸、お前は復讐のためではなく守るために武器を手にして戦おうというのだな』
『はい』
地下牢が再び静かな空気に包まれる。