第33章 毛利元就の思惑
沈黙を破るかのように先に言葉を発したのは顕如だった。
『蘭丸、頭を上げろ。一体何の用があってここに来た。謝罪のためではないのだろう?』
蘭丸は頭を上げると再び言葉を選びながら話し始める。
『俺がここに来たのは顕如様を守るためです。警備が薄いのを知った毛利さんが伊賀の忍を使って安土を攻めてくるかもしれない。そうなったら顕如様の命も危ないんです』
それを聞いて顕如は蘭丸から目をそらしながら答える。
『私の事は放っておけ。ここにいるだけですでに死んだも同然なのだからな。仮に上手くここから脱出して外に出ても、この先毛利に利用されるのは私の本意ではない』
『そう考えているのならお願いです、本願寺の門徒たちが小谷城と一乗谷城から撤退するように文を書いてもらえませんか?俺はこんなところで顕如様を失いたくないんです!』
蘭丸が声を荒げながら懸命に訴える。
『毛利も伊賀の忍も私の事などお構いなしにここを攻めればいい。その結果、織田信長への復讐が叶うのなら私は命を引き換えにするつもりだ』
『そんなの絶対に駄目です!信長様は撤退を条件に門徒たちを一人も殺さないと言っていました。同胞たちが血を流すのも命を失うのも顕如様次第だって……』
同胞たち、と聞いて顕如は何かを考えながら目を閉じる。
それを見た蘭丸は顕如がこのまま門徒たちを見捨てるはずがないと確信した。