第33章 毛利元就の思惑
安土城の地下では蘭丸と顕如が向かい合っていた。
顕如は自分の部下でもある本願寺の門徒たちが自分の指示なしに動いていることを知らない。
当然ながら秀吉たちが小谷城へ行ったことも、信長と家康が一乗谷城に向かったことも知らなかった。
蘭丸は意を決したように地下牢へと向かい、顕如のいる牢の前で立ち止まる。
『顕如様、大事なお話があります』
蘭丸の声が静かな地下牢に響く。
言葉を選びながら話し始めると、顕如はそれを身動き一つせずに黙って聞いていた。
『北近江の小谷城が本願寺の門徒たちによる襲撃を受けました』
その一言を聞いた顕如は自分の指示ではないとすぐに気がつき、無言のまま蘭丸の次の言葉を待つ。
『越前の一乗谷城も同じ状態にあり、現在織田軍が二手に分かれて制圧に向かっています』
『ならばいつも以上に城の警備が薄い。だが蘭丸、お前は私を牢から逃がすためにここに来たのではない、そうだろう?』
『……はい。顕如様、ごめんなさい。間者であることも、顕如様を助けようとしていた事も織田軍に知られてしまいました。本当にごめんなさい』
蘭丸は牢の中にいる顕如に向かって深く頭を下げる。
少しの間、地下牢の中に静かな空気が流れた。