第33章 毛利元就の思惑
『そうです。そして織田軍が戦に疲弊するのを待っていました。でも…織田軍が疲弊する前に毛利さんが直美を連れてこいって言い始めて。
…顕如様は後からでいい、命令に逆らった者は殺してもいいって……』
蘭丸は言葉を詰まらせ、ぎゅっと拳を握りしめたままそこで黙ってしまった。
『引き渡しに失敗したのはそのためか。金に目がくらんだ伊賀の忍に襲われたのだな』
蘭丸は黙って頷く。
『さて、俺と家康が一乗谷に向かえば安土城の警備はいつも以上に手薄になる。そこを突いて毛利が攻めてくる可能性が十分にある。そこでだ』
ここで信長から蘭丸に1つの命令が下る。
『顕如と話をさせてやる。一乗谷城と小谷城に攻めて来た門徒たちを斬り殺さぬ代わりに、城から撤退する指示を出すよう説得しろ』
『説得ですか?』
信長からの命令は予想していなかったもので、思わず聞き返してしまう。
『そうだ、蘭丸。お前にしか出来ぬ。これ以上同胞の血を流し、犠牲を払うのはあいつとて本意ではないはずだ』
『…俺に出来るでしょうか』
『迷うな、これは命令だ。説得出来なければこの安土は毛利の思惑のまま戦場になる可能性がある。毛利の手下となった伊賀の忍は織田軍に恨みがある。万が一城が落ちれば何の確認もせずに地下牢ごと城を燃やし尽くすだろう』
黙って聞いていた蘭丸が声を上げる。
『そんな!そしたら顕如様が!』
『説得しろ、そしてかつてのように復讐のためではなく、貴様の大切なものを守るために戦え』
『守るために戦う…大切なものを…』
この時、蘭丸の脳裏に浮かんだのは顕如と直美、そして織田軍の武将たちの皆の姿だった。