第32章 春日山城
ここで話を聞いていた景家が1つ提案をする。
『謙信様、今日は春日山城に戻られたばかりで予定はありませんので直美様と一緒に城下町に梅干しでも買いに行かれてはどうでしょう?』
景家からの突然の提案を、謙信は何の疑いもなく快諾する。
『悪くないな、来い。今から行くぞ』
(今から!?)
『は、はい!』
(またしても景家さんに先にやられたって感じがする。嫌じゃないけど何か悔しい!)
思惑通りにいって満足顔の景家に背中を見送られ、謙信と2人で城下町に向かった。
謙信と2人で春日山の城下町を歩くのはもちろん初めてだった。
(なんだか無駄に緊張するな。それに城下町の人たちの視線をかなり感じるんだけど…)
あの女嫌いの謙信が以前春日山に滞在していた女性を連れて逢瀬の最中だという噂があっという間に流れ、城下町ではちょっとした騒ぎになっている。
『謙信様、見られていると何だか落ち着かないですね』
『お前の事をじろじろと見られるのはいい気がしないな…来たばかりだが予定を変えるぞ』
謙信はくるり向きを変えると、再び春日山城に向かって歩き始める。
城門の前まで戻ってくると、城下町に向かう佐助とすれ違った。