第32章 春日山城
『奪われたら奪い返す、全国で噂を広めてこれを繰り返すことで織田軍の戦力を削り、隙あらば織田信長の首を狙い、そして貴女を手元に置く。これこそが毛利元就の目的だと私は思っています』
景家の冷静な考察は指摘する箇所がないくらい的確でしかも分かりやすいものだった。
しかし腑に落ちない部分がある。
『でもそれは今、織田軍が戦っているのとは別の問題ですよね?』
『はい。だからこそ危険なのです』
話によると、顕如の手下が小谷城と一乗谷城で戦っている間、安土の警備が手薄になるのを狙って毛利の雇った伊賀の忍が安土に攻め込んでくる可能性があるとの事だった。
もしこの話が本当で自分が安土に残っていたら巻き込まれて足を引っ張るのは目に見えている。
『直美様は大丈夫です。何も心配はいりません。貴女はここで謙信様に守られていればよいのですから』
(あはは…結局そうなるのね。でも今回は凄くありがたいかも)
織田軍のために今自分が出来る事は、ここで戦が無事に終わるのを祈りながら待つことだけだ。
『あの、どのくらい居候させてもらえるか分かりませんが、織田軍の役に立てない代わりに春日山の皆さんのお役に立てるよう頑張ります!』
何かしていないときっと戦の事や安土の事が気になってしまう。