第31章 蘭丸
『信長様!!』
勝負の行方を見守っていた直美が、信長と家康の元に駆け寄ると、家康から見覚えのある小さな袋を渡された。
『はい、これ。部屋から持ってきたよ』
『え?これってこの前もらった香袋だよね、何で?』
その質問に答えたのは信長だった。
『聞け、これから俺と家康はしばらく戦で城を留守にする。戦況によっては安土が戦場になる可能性が出て来た。巻き込まれて足手まといになりたくなかったらしばらく春日山に遊びに行っていろ。馬なら連れてきたぞ』
離れた場所に遠江鹿毛こと御影がいるのが見える。
『香袋の白檀の香りが消える前に戦を終わらせて春日山に迎えに行くから。怪我しないで大人しくしてなよ』
『ちょっと待ってください!いきなりそんなこと言われて、はいそうですかって従うと思ったら大間違いですよ!』
『これは決定事項だ。文句は言わせん。上杉、春日山で直美を客人としてもてなせ。期間は戦が終わるまでだ』
いきなりの展開に信長と家康以外の全員が驚いている。
だがある程度はすでに想定されていたのか、謙信も信玄もすぐに春日山に滞在する事に対し理解を示した。
『俺と家康は蘭丸と共に安土城に戻る。すぐに兵を連れて一乗谷に向かう予定だ。安土城には光秀がいる。こいつらに泣かされたらすぐに早馬で知らせろ』
そう言って笑う信長の笑顔はとても優しく見えた。