第31章 蘭丸
『昨日は顕如を自由にしてやる事も考えここまで連れてきたが、運は貴様には味方しなかったな』
信長にそう言われて思い出したのはタイミング悪く飛び込んできた毛利元就からの依頼の事だった。
刀を交えながら信長と蘭丸が会話を続ける。
『確かに運は味方してくれませんでした。しかも毛利さんが直美を狙ってて、もう俺一人では守りきれない。だからもう直美は帰します。その代わりに顕如様を殺さないで!お願いします』
蘭丸の声と、刀のぶつかる金属音が何度もその場に響く。
(信長様も蘭丸君もわざと急所を狙わずに戦ってるのが私にもわかる…どうにかならないのかな)
『殺すつもりがあればとっくに殺している。この先も顕如を殺すつもりはない。蘭丸、貴様の事もな』
(俺の事も!?)
その言葉を聞いて安心したのか、蘭丸の力がほんの一瞬緩んだ。
信長はその隙をついて斬り込み、蘭丸は右腕から血を流しながら地面へ倒れ込む。
『そんな迷いのある太刀筋では俺を斬るどころか己の身を守ることすら出来ぬぞ』
蘭丸の喉元に刀を突き付けると、蘭丸は覚悟を決めた様に目を閉じる。
そこから先の展開をその場にいる全員が静かに見守っていた。