第31章 蘭丸
指定された場所に来たのは信長と家康だけだった。
馬を降りた信長、家康の2人と先に待っていた蘭丸、直美の四人が距離を置いて向かい合っている。
少し離れた場所では謙信たちが4人の様子を静かに見ていた。
先に話し始めたのは信長だった。
『蘭丸、貴様の目的などとうに知っている。顕如を解放した後は織田軍への復讐を企てているらしいな』
『そうです。まずは顕如様を解放してください。そしたら直美を安土城にちゃんと帰します』
筋書き通りの会話だったが、このまま顕如が解放されれば何が起こるかは明白だ。
『信長様!私なら大丈夫です。だから戦になるのだけは避けてください!』
伝えなければ後悔しそうで思わず大きな声で叫ぶ。
蘭丸が黙っていろと言わんばかりに直美を背中に隠した。
その直後、信長から伝えられたのは何の迷いもない言葉だった。
『顕如の解放は断る。貴様の茶番に付き合っている暇などない。顕如の手下どもが俺の領地を荒らし始めたんでな、俺と家康もこれから一乗谷に出陣の予定だ』
その場に静かな空気が流れる。
謙信たちも何も言わずに様子を見守っていた。