第31章 蘭丸
『誰がお前の隣で寝るか揉めた。酒で勝負することになり、俺以外の全員が潰れた。佐助と信玄なら廊下に転がしておいたぞ』
(廊下に!?姿が見えないわけだ…)
『謙信様、寝てないんじゃないですか?』
(もしかしたらだけど、寝ないで自分と蘭丸君を守ってくれてた?)
『いや、お前が起きる前に目が覚めた。心配はいらん。こいつらは目が覚めるまでそのままにしておけばいい』
謙信はそう言い終えると手入れを終えた姫鶴一文字を寝ている蘭丸の背中に向けた。
『こいつを斬ればお前は自由の身だな。安土城に戻ったあとは余計な戦も起きぬ。お前の代わりに俺が斬ってやるぞ?』
綺麗なオッドアイに見つめられ、一瞬飲み込まれそうになる。
『だ、だめですよ!寝込みを襲うなんて!そんなの謙信様らしくないですし、蘭丸君の命と引き換えの自由ならいりません』
まさかこんな展開になるなんて思いもせず、キラリと光る姫鶴一文字に背筋がぞくりとする。
『ならば俺が勝手にお前の髪の仇を取ることにする。こいつを斬る大義なら充分あるだろう』
謙信の表情はいたって真面目だ。