第31章 蘭丸
『俺が信長様と一対一で……』
静かに話を聞いていた直美だったが、どうしたら戦にならないかを考えながら会話に加わる。
『蘭丸君、私との約束だったらすぐに守れなくても大丈夫だよ。私も戦になってしまうのは嫌なの』
『直美?』
『あのね、私、自分が安土城に戻ったせいで戦や復讐が始まるなんて堪えられない。もちろん安土城には帰りたいけど戦になるくらいなら今は我慢するから』
『この先に起こる事を考えたら姫はそう言うだろうと思っていたけどな。さて、明日はどうするんだ?』
謙信は盃を口に運びながら話を聞いている。
佐助は無表情のままだ。
『明日は……向こうの出方次第で対応を考えるよ』
『そうか、おそらくあっちも同じことを考えているだろうから腹の探り合いだ。上手くいかないと顕如共々、魔王に喰われるぞ』
『一晩よく考えることだな。この女の事は心配するな、安土城に戻らぬのならしばらく春日山城に身を置けば良い』
(春日山城に!?でも戦にならないならそれがいいのかな。春日山城なら信長様も安心するだろうし、謙信様たちが一緒なら安芸に連れて行かれる心配もないだろうし…)
『直美さん、まだ部屋はそのまま残してあるから春日山城に来るなら安心して。まずは明日がどうなるか見守っているから』
(信玄様も謙信様も、自然な話の流れとはいえ直美さんを春日山城に上手く誘導したな)
皆で話をしているうちに安土城にすぐ戻れる気がしなくなってきたのは確かだった。