第31章 蘭丸
ほんの短い時間だけれど、それぞれに思うことがある様で部屋に静かな空気が流れた。
話に夢中になっていたため、碁石を置く手はすっかり止まっている。
『えっと、次は私でしたよね?』
沈黙を破るように囲碁勝負を再開したのだが。
『あっ、信玄様。今回は私の勝ちですね』
『これで2勝2敗か。今夜は色々と話し過ぎたかな』
信玄の顔にはいつもの優しい表情が戻っている。
『とても興味深いお話が聞けました。ありがとうございます』
勝負が終わってもまだ蘭丸は一人で何か考えている様だった。
『おい、そろそろ佐助が戻ってくるはずだ。もっと楽しい話を聞かせろ』
静かに話を聞いていた謙信が痺れを切らした様に会話に割って入る。
それと同時にタイミングよく佐助が部屋に戻ってきた。