第31章 蘭丸
『アイツはその性格の真面目さ故に鬼に成り果てたんだ。男に二言はないとよく言っていたぞ』
2人の間に具体的に何があったのか分からないが、顕如の事を語る信玄は少し寂しそうに見えた。
『そういえば姫は顕如に会った事はあるのか?』
『えっと、本能寺が燃えた夜に1度だけ。信長様を助けた私に不思議な力があると勘違いしたのが顕如さんで、その勘違いが原因で色々と巻き込まれることになりました』
『そうだった。巻き込んで悪かったな。アイツに代わって詫びさせてくれ』
突然、信玄から謝られてもこちらとしては困惑するだけだ。
『やめてください。信玄様が謝る必要なんて何もないじゃないですか』
『俺は昔の優しいアイツを知ってるんだ。鬼に成り果てたと本人は言っているがそれは本当の姿じゃない……そう信じてやりたい。そんな風になってしまったのを止めることが出来なくて、さらには姫を巻き込んだ。どうしても申し訳ない気持ちになるんだ』
蘭丸はずっと黙ったまま信玄の話を聞いていた。
(顕如様、本当はどっちなんだろう)
蘭丸は顕如と共に過ごした時間を振り替える。
そして顕如は自ら鬼に成り果てたと言う割に、戦以外で非道な行動を取ることはなかったのを思い出していた。