第31章 蘭丸
その日の夜、再び地下牢に入れられた顕如の元を光秀が訪れていた。
『せっかく外に出られたのに再びここに戻ってくるとは残念だったな』
『その言葉、そのまま返してやろう。私がまだここにいるということは織田軍にも何も益はなかったのだからな』
光秀は顕如の話には反応せず、いつも通り冷静に会話を続ける。
『引き渡し場所で死んでいたのは伊賀の忍だ。本来ならお前を救うはずの立場だが何故あそこで死んでいる。やったのは蘭丸か?何故だ』
『さあな、伊賀の忍の事など知らぬ。もし蘭丸がやったとして、蘭丸の考えがあるのだろう。俺は知らん』
『蘭丸と直美は行方不明のままだ。何かに巻き込まれた可能性が高いだろう』
その一言を聞いた顕如の表情が一瞬だけ曇った。
もちろん光秀はそれを見逃さない。
『2人が無事であろうとなかろうと見つかったら教えてやる』
光秀は不敵な笑みを浮かべながら顕如に背を向け、地下牢から立ち去って行った。