第31章 蘭丸
『ここに何の用だ』
顕如が牢の中から光秀を睨み付ける。
光秀は少し笑みを浮かべながら顕如からの問いかけに答えた。
『優秀な部下がお前をここから出そうとコソコソ動いている様だな』
『さあな、何のことだか私にはわからん』
『今さら否定しなくていい。蘭丸がここに来たのはお前に会うためだろう』
『……だとしたら何だ』
『こちらの調べによると蘭丸は伊賀の忍だ。伊賀の忍は報酬を積めば何でも依頼を受けるらしいが、こちらが更に報酬を積んで寝返らせたら何が起きるだろうな』
『言っておくがあいつは金で寝返る事はない』
『仮に倍以上の報酬でも動かぬのならそれは大した忠誠心だが』
光秀は顕如から発せられる少ない言葉からその背景を読み取っていく。
『蘭丸は数年間に里を追われた者の一人だな』
『さあな…』
『否定も肯定もせずか、成る程』
薄暗い牢で光秀と顕如の対峙が続く。
城下では秀吉たちが懸命に直美の行方を探していた。