第31章 蘭丸
『信長様!失礼いたします!』
秀吉は信長の返事を待たずに天主の中に入ると、信長の元へ急いで駆け寄る。
普段からは考えられない切羽詰まった秀吉の行動と表情から、信長は何か良からぬ事が起きたのだと容易に想像がついた。
『秀吉、落ち着け。何があったのか話せ』
『はい……』
秀吉は一旦落ち着くため、静かに呼吸を整える。
『こんな物が城に届きました』
秀吉が女中から受け取った文を渡すと信長の表情が一変する。
中に入っていた簪と髪を見ると、その表情はさらに険しさを増していった。
『最初はいたずらかと思いましたが、その簪はさっきまで直美がつけていた物で間違いありません』
『差出人は書いていないな。だがこの文に使われている紙は山代和紙、毛利の治める国で作られた物だな』
『つまり、背後にいるのは毛利元就ですか』
『ああ、間違いないだろう。だが実行犯は別にいる。毛利はまだ動ける状態ではないからな。文に書いてある通り、目的は顕如の解放だ』
城に届けられた文。
そこには差出人の名前はない。
『直美の身柄は顕如と引き換えにする』
たったそれだけの内容が書かれていた。