第31章 蘭丸
安土城に戻るとすぐに天主に向かった。
通常なら天主に入る前に自分の名前を名乗るのがいつもの流れなのだが。
『信長様、金平糖です』
今回はすっかり名前を言うのを忘れてしまった。
『ふっ、入れ。貴様いつの間に名前が金平糖に変わったのだ』
(ああー、ついうっかりして名前を言い忘れちゃった!痛恨のミスだ)
『の、信長様ならきっと私だとわかってくれると思ってました!さすがですね!』
『天主に来る女は貴様だけだからすぐにわかる。一体何を考えていた』
苦しい言い訳はすぐに見破られ、隠し事は出来ないとつくづく思い知らされる。
『えっと、城下町にも伊賀の忍がいると三成くんから教えてもらって不安になりました』
金平糖を渡しながら伝える。
『それだけか?まだ何か顔に書いてある様だな。この俺に隠し事をするつもりか?』
(信長様、やっぱり鋭すぎる!!)
『じゃあ正直に言います。でもこれは私の勝手な憶測ですからね。城下町に忍が入り込んだのは誰かが手引きをしているんじゃないかと思っただけです』
『その誰かというのも思い当たる節があるのであろう、顔にはっきりと書いてあるぞ』
(あー、もうバレてるし。なんて早いの…)
『はい、考えたくないですけど』
『じきに動きがあるはずだ。それまでは今まで通り過ごせ。城下に出るときは必ず護衛をつけろ』
『わかりました。明日以降も馬の練習を頑張ります』
動きというのが何なのかはわからない。
今まで通りに過ごせというならそれに従うまでだ。
あえて名前は出さなかったけれど、きっと考えていた内容は合っているんだろう。
金平糖を渡し終えて天主を出てからは蘭丸の事で頭がいっぱいだった。