第31章 蘭丸
だが心配していた割に、返ってきた反応は普通のものだった。
『凄いでしょ、気配を消すのって面白いし得意なんだ!』
ほっとしたのは良かったのだが、まだ後ろから蘭丸に抱きしめられたままの状態だ。
『直美、家康様と同じ白檀の匂いがする…』
『蘭丸君、ちょっと近すぎるよ!』
腕の力を緩めてもらえずそのまま動けない。
『ねぇ、家康様とそういう関係なの?』
『そういう関係って!?そんなんじゃないから!!』
『直美の世話役は俺だよ?』
『蘭丸君、何が言いたいの?からかうのは止めてね』
身を捩って腕の中から抜け出そうとしたけれど、逆に苦しいくらいの力で抱きしめられ身動きが取れなくなってしまった。
『蘭丸君、苦しいよ…』
これまでほとんど意識した事はなかったけれど、その力の強さに蘭丸も男なのだと意識させられる。
『俺が何でもお世話してあげるよ』
『ねぇ、さっきから何言ってるの?』
(何でもだなんて意味深すぎるよ…)
後ろから蘭丸の顔が近付いて唇が頬を掠めたその瞬間、急にすっと体が離れていった。
(え、何?)
『子供は寝る時間だぞ。ここで何をしている』
そこにタイミング良く現れたのは光秀だった。