第30章 褒美
馬から降りた直美を光秀が楽しそうに見ている。
『家康が言っていたが、袴姿になるとまるで小童だな』
『子供じゃありません!こう見えても少なくとも中身は大人です!』
ついムキになってしまい言い返してしまう自分もいけないのだろうけど。
『では大人扱いしてやろう。今日はこのまま俺の御殿に泊まるか?望みのままにもてなしてやるぞ?』
『そうやって私をからかって遊ぶのは止めてください。着替えてきます!』
何を言っても光秀に会話のペースを持っていかれて調子が狂いそうになる。
もちろんこれはいつもの事なのだけれど、いつまでたっても慣れない、悔しい。
でも光秀のことは嫌いではない。むしろその逆なのだから不思議だ。
着替えた後、安土城に向かいながら話したのは褒美にもらった馬の事だった。
『光秀さん、私がもらった馬はそんなに凄い馬なんですか?』
『ああ、見た目も能力も誰もが羨む馬だ。信長様はあの馬の賢さに目をつけて特に可愛がっていたな』
一人で満足に乗る事すら出来なかった事が何だかとても申し訳なく思えてくる。
『早く乗りこなせる様になれ。遠江に行くのだろう?』
『そこまで聞いているんですか?』
光秀が知っているのは信長の計画だけではなかった。