第30章 褒美
休憩が終わると今度は直美が手綱を握って来た道を戻っていく。
『違う』
『そうではない』
『貴様、覚える気はあるのか』
何度も何度も後ろからそう言われながら、どうにかして厩にたどり着くと2人を出迎えてくれたのは光秀だった。
『光秀さん!どうしたんですか?』
『予定より遅い様なので迎えに参りました』
『こっちは問題ない。あと2日もあれば乗りこなせる様になるだろう』
2人の会話から光秀が今日の事を全て知っているのだと理解する。
が、馬を見ると光秀は予想外の反応をした。
『もしかして、遠江鹿毛を褒美にもらったのか?』
『はい、そうですけど』
『この馬はこの日ノ本で間違いなく5本の指に入る大変優れた馬だ。信長様に聞いていないのか?』
首をぶんぶんと横に振った。
『光秀、織田家ゆかりの姫に名もなき馬など似合わぬだろう』
(本当は全然織田家にゆかりのない庶民なのに、懐刀の時も同じ事を言ってくれた気がするな)
『直美、この馬の事が知りたかったら光秀に聞くといい。先に城に戻る。光秀、あとは頼んだぞ』
信長はそう言うと先に一人で安土城に戻って行ってしまった。