第30章 褒美
手綱の長さや脚の使い方で馬は早くも遅くもなり、進む方向も自由自在なのだと言うけれど。
気付けば一つを記憶している間に三つ以上の事を説明されている。
こんなの1回で覚えられるわけがない。
(これじゃ馬の耳に念仏だよ、馬だけに……ううっ)
ゆっくり歩いたり、突然スピードを上げて駆けたり。
ただ前に進むだけの動作が今は何よりも難しい。
結局、頭で理解するよりは体で覚えた方が早いという結論にたどり着くのだった。
信長に誘導されて見晴らしの良い丘で休憩を取る。
近くを流れる小川に馬を連れて行き水を飲ませていると、顔を上げた瞬間に見覚えのある人物が見えた気がした。
(あれは……蘭丸君?)
川の向こうに見えたその姿は一瞬にして見えなくなってしまい、今はもう誰かがいたような気配すらない。
(こんな場所にいるわけないか!いたとしたって、安土城の近くだから別に何も不思議じゃないよね)
正直、あまりいい予感はしなかったけれど悪い方向に考えないためにそう思う事にした。