第30章 褒美
厩に用意されていた馬乗袴に着替えると、馬の背中に乗る前に手綱を持って馬と同じペースで歩く練習から始まった。
超スパルタの猛特訓を想像していたのにその逆だったことにほっとする。
手綱を手に馬を誘導しながら信長と城下の道を歩いていく。
思えばこうして2人でゆっくり外を歩く時間はこの時代に来てから初めてだった。
わざわざ時間を作ってくれた事が嬉しくてたまらない。
でもそんな時間はあっという間だった。
『よし、だいぶ慣れてきたな。一人で乗ってみろ』
いつもは手を借りたり、上からひょいっと持ち上げられて乗せられていたのだけれど、誰の力も借りず一人で乗るとなると勝手が違う。
『違う、馬の背には必ず左側から乗れ』
そんなレベルなのだ。
乗っては降り、また乗っては降りる、これを何度も繰り返す。
数えるのも忘れるくらい繰り返してようやく何の迷いもなく背中に跨がる事が出来る様になった。
『あとは馬を操るだけだ。見本を見せてやるから1回で覚えろ』
『1回で!?』
(うわ~~!やっぱりスパルタだったーー!!)
信長は軽快に馬の背中に乗り、直美の後ろから手綱を握る。
『難しく考える必要はない、体で覚えろ』
そう言うと器用に馬を走らせ始めた。