第29章 安土城へ
とりあえず頭の中に浮かんだ言葉を素直に伝えた。
『信長様は何が起こるか分かってて私を行かせたんですよね!酷いです!』
『ふん、浅井の裏切りなど簡単に予見出来た。同盟がなくなったところで織田軍にとっては痛くもかゆくもない。茶会を逆に利用して浅井と朝倉を共に潰すつもりでいたが、貴様、伊賀忍と毛利を引き寄せるとはなかなか良い働きであった。退屈せずにすみそうだ』
(働きって、ほめてるの?私は何もしてないけど…)
『私の悪運の強さは信長様を退屈させない自信がありますから!でも崖から川に飛び込んだりして本当に危なかったんです』
会話の着地点がわからず、何をどう報告したらいいのかわからない。
『浅井と朝倉の件については褒美をやる。今夜天主に来い』
信長は楽しそうにそう言って天主へと戻ってしまった。
『行っちゃった…』
ふと気がつくと、蘭丸が目を丸くしてこちらを見ている。
『ねぇ、直美って凄いんだね!信長様のこと、怖くないの?』
『最初はめちゃくちゃ怖かったよ!もちろん今でも逆らえないけど』
『信長様に意見をハッキリ言う女の人、初めて見たよ』
『私には普通の事なんだけどな』
『何だか直美の近くにいたら面白そう!これから俺が世話役だからよろしくね~』
そう言って無邪気な顔で直美の腕に抱きつく蘭丸を、グイッと引き離したのは光秀だった。