第29章 安土城へ
『蘭丸、久しぶりだな。今まで音沙汰もなく敵地にいたとは驚いたぞ。行方をくらましてからの事を俺がじっくり聞いてやろう』
『うわー、光秀様だ!じっくり聞くだなんてまるで尋問みたいだなぁ』
『お前が実際にどこで何をしていたかによっては尋問になるだろうな』
光秀の口元は笑っているのに目が笑っていない。
全然冗談には聞こえなかった。
光秀が蘭丸をからかっているのか、本気でそう言っているのかは会話を聞いているだけでは判断できなかった。
『おい、光秀!あまり蘭丸をいじめるなよ?』
タイミング良く助け船を出したのは秀吉だった。
『あっ!秀吉様~!お久しぶりです!』
蘭丸は秀吉の元に駆け寄ると、光秀から逃れる様にその背中に素早く隠れる。
『とんだ誤解だな。いじめてなどいないぞ。からかう相手がもう一人増えたから挨拶しただけだ。じゃあな』
そう言うと光秀はその場から去って行った。
『光秀様、やっぱり苦手だな~』
『あいつは誰に対してもあんな態度だからいちいち気にするな』
『そうだよ、蘭丸君。私もいつもからかわれてるし大丈夫だよ』
本当は大丈夫じゃなくて、光秀との会話は毎回結構尾を引くのだけれど…
蘭丸がすぐに笑顔になるあたり、以前からよくある光景だったのかなと想像した。
この後、秀吉が蘭丸の部屋を用意しそれぞれ自分の部屋へと戻って行った。