第29章 安土城へ
『大丈夫。万が一馬に酔っても薬があるから』
家康が薬の入った包みを見せる。
『あ、俺にはまきびしと煙玉がありますよ』
(佐助君?)
『俺は甘味を隠し持ってるぞ。幸には秘密だけどな』
(信玄様??)
『俺には姫鶴一文字があるぞ』
(………え?)
相変わらずの不思議なノリで何の話をしていたのか忘れてしまいそうになる。
『えっと、つまり皆さん色々持ってるから大丈夫ってことだね!頼りにしてますので安土までよろしくお願いします』
こうして最後はよくわからない会話になりながら城下町を出発したのだった。
朝晩は冷え込むのに対し、昼間はまだ汗をかくほど気温が高くなる。
移動で体力を消耗するのは人間だけではなく馬も同じだった。
スピードが落ちて走れなくなる前に川の近くで休憩を取る事になる。
『もう半分くらい来たのかな?ここまでは順調だったから、もしかしたらこのまま安土まで何もなく帰れるんじゃない?』
『……能天気。先頭にいたから気付いてなかったかもしれないけど、後方にいた謙信と信玄の二人が追っ手の相手をしてくれてるんだよ』
『えっ!そうだったの!?』
2人が一番後ろにいるのは知っていたけれど、まさか追っ手が来ていたなんて家康に言われるまで気がつかなかった。
確かに周囲を探しても2人の姿がない。
『怖がると思って言わなかっただけ』
『大丈夫だ。目を閉じて寝てろ』
自分に出来る事はなく、謙信と信玄が無事でいてくれることを祈るしかなかった。