第29章 安土城へ
一乗谷の城下町から安土城までは最短の距離で約140キロ。
もちろんずっと直線の道ではなく、途中に森や足場の悪い道もあるため、1日で安土城に帰れるかは微妙なところだった。
もちろん移動手段は馬なので、どこかで休憩を取る必要がある。
『追っ手の忍が途中の村にいるのは間違いないので村では休めないと思ってください』
出発前に佐助がそう言うと、政宗がクスクスと笑いだした。
『政宗?今の話に笑うとこあった?』
『いや、直美に初めて会った日を思い出しただけだ。本能寺から安土城に向かう時、俺の馬の上で器用に熟睡してただろ』
確かにあの時は短時間で色々ありすぎて疲れて寝てしまったけれど。
冷静に考えると、あのどんな顔をして寝ていたのかは政宗しか知らない。
『もしかして私、口開けてた?それとも寝言でも言ってたかな』
『ああ、でかい声で政宗大好きって言ってたな』
『嘘でしょっ!?』
『政宗さん、直美をからかうのはそのくらいにしてください。早くしないと安土へ着くのが遅れます』
思わず家康が間に入る。
『ははっ、冗談だ。また同じ様に馬の上で寝てればいい。だが寝言なんか言ったら舌を噛むくらいの早さで駆けるからな。起きたら安土城だと思ってぐっすり寝てろよ?』
『逆に寝れないような気がする…それに、もし酔ったらどうしよう』
もしかしたらかなりのスピードで駆けるのかもしれない、そう思ったら追っ手より馬酔いの方が心配になってしまった。