第28章 佐助のターン
そろそろ城下町も近いだろうと思いながら暗くなった道の先を見ていると、前方から歩いてきた男が佐助に話しかけてきた。
『すみません、もしかしてその女性、直美様ではありませんか?』
『っ!あなたはっ!!』
佐助はその男の顔にはっきり見覚えがあった。
それは上杉武田軍と織田軍が支城を巡って戦っている最中に現れた北条の忍。
目と目が合った瞬間、武器を手にしての修羅場となり、佐助が押されながらも何とかその場から立ち去った経緯がある。
佐助は小田原城の天守で北条とは縁を切った小太郎に会っていないため、まだ因縁の相手として記憶されていた。
佐助は突然話しかけてきたその男を警戒して正面から睨み付ける。
だが男は怯むことなく再び佐助に話しかけてきた。
『先日は失礼いたしました。あの時はこちらにも深い事情がありまして。私は風魔一族の5代目頭領、風魔小太郎と申します。見たところお困りのようですが』
(風魔の5代目頭領だったのか!一対一で戦って俺が勝てるわけがない)
もし今、再び戦ったところで勝ち目がないのは佐助が一番良く分かっていた。
目の前の小太郎からは殺気が全然といっていいほど感じられない。
『直美さんを知っているんですね』
『知っているも何も、小田原城では直美様の護衛と監視と世話役を任されていましたから』
『やはりあなたがそうだったんですか。小田原城の天守で北条氏政と激しくやりあったと聞いています』
小田原城での戦いの様子は幸村から詳しく聞かせてもらい、小太郎の強さにただ感心するばかりだった。